東京で育ちながらも、幼いころから動物園や森林・公園で遊ぶのが大好で活発な女の子だった。幼いころは獣医になりたかったが、大学の先輩が自然保護官になったことにより、その職業に興味を持ち始める。現在は自然保護官として最初の勤務地となる支笏洞爺国立公園で、自然を守るだけではなく、自然を上手に利用してもらえるように、地元住民や関係各所の間に入り管理・調整なども行っている。

自然を大切にする、地元の思いを知って

ー どのようなお仕事をされていますか?

自然保護官とは環境省の国家公務員で、通称レンジャーとも呼ばれます。私の担当は支笏洞爺国立公園のうち支笏湖・定山渓地域の54.906ヘクタールという広い地域です。国立公園の風致景観を守るために自然保護の調査をおこなったり、敷地の利用・管理のために関係機関や地元自治体・住民のかたとの調整をしています。他にも支笏洞爺国立公園の自然環境への理解を深めてもらえるように、自然観察会や清掃活動を開催するのも自然保護官としての仕事です。支笏洞爺国立公園は、敷地の中に公有地・民有地が混合し、たくさんの関係者の方々の協力のもと維持されている協働型の国立公園です。地域住民や、お店・旅館を経営している人、役所の方々などがさまざまな形で協力し合っています。自然保護官の業務は自然相手というよりも、そういった人と人をつなげるコーディネートをしていく仕事だと考えています。

ー その職業についたきっかけは何ですか?

せっかく森林大国の日本にいるのだから森林をフィールドに学ぼうと思い、大学では森林科学を専攻し、大学院修士課程まで森林生態学の研究をしていたバックグラウンドがありました。幼いころ地元に大きな動物園があった影響で、将来は海外でアフリカゾウなどの大型哺乳類を守るための獣医になりたいと考えていましたが、大学生活で自然に触れ勉強をしていくうちに、動物という「個体」から広い範囲の「生態系」に視点が移りました。日本だけではなく世界中の様々な地域の自然や文化を体感し、それらを残していくためにどうしたら良いかを考える仕事。そう思い始めた時に大学の先輩が自然保護官になったのを聞いて、レンジャーという仕事に興味を持ち始めたのです。レンジャーは自然相手だけではなく人と人、人と自然をつないで自然を残していけるコーディネーターと知り、惹かれていきました。公務員試験を受け卒業後環境省へ入省し、最初の仕事は東京の霞が関での事務職でした。その後札幌での勤務の後、支笏洞爺国立公園の自然保護官としてはたらき始めたのです。

ー もっとも大きな節目や転機を感じた時期はいつごろでしょうか?

支笏湖は全国の国立公園の中でも初期に現地職員が配置された歴史のある地区です。着任当初から「保護官」「レンジャー」「管理官(昔は国立公園管理官と呼ばれていました)」といたるところで声をかけてもらったり、行事やイベントでは市長さんなど長と名の付く方々と並ぶこともしばしばありました。大変うれしいことなのですが、初めての現地勤務なので着任直後は、ほとんど経験がない若造の自分で申し訳ないという気持ちが入り交じり、戸惑いが先にありました。しかし支笏湖の人たちは、そんなこと全く気にせず、すぐに色々なところで声をかけてくれたのです。支笏湖のお祭りやイベント、地域の清掃活動や小学校の行事などを通じて、自然保護官としてだけではなく住民としての日々を過ごしていくうちに、地元の人は支笏湖の自然をとても大切に思っていて、地域が一丸となって守り続けてきた自然なのだと心から感じるようになりました。急に気持ちが切り替わったのではなく、地元の人たちと関わることによって、徐々に感じることができました。そして、いままでの自然保護官はどのような役割をしていたのか。これからは自分になにができるのか。などを考えるようになり、少しでも前に進められることを形にしていこうと思い始めたのは着任半年後でした。地域のために自分が出来ることはなんだろう?という思いを土台に持つことができてからは、環境省として初めて苔の洞門の自然環境調査を行ったり、地元・支笏湖小学校の登山行事に協力するなどといった、一歩前に進んだ活動ができました。

限られた期間でつくる、日々の情報収集と地元との関わり

ー 仕事や自分のキャリアに関する悩みを、どのように乗り越えましたか?

一般的に自然保護官は1年目に霞が関にある本省勤務し、2年目は札幌など地方大都市への地方環境事務所勤務、3年目に各現場になる自然保護官事務所勤務という異動があります。しかし私の場合、人事の都合で他の同期より早く現地勤務となりました。現場では基本的には自然保護官1人、非常勤の自然保護官補佐1人という体制で、現地業務は自然保護官がほぼ1人で判断し対応しなくてはなりません。事務仕事の時は早く現場にでたいと思っていましたが、すでに現場で奮闘する先輩レンジャーを見て、自分に本当につとまるのかとても不安になっていました。そんな私を見た大先輩のレンジャーから「レンジャーは駅伝。順位を一つでもあげて次の人にタスキを渡すことが大事」とのアドバイスをもらったのです。国家公務員である以上、数年で自然保護官は異動になります。自分ひとりで完結させるのではなく、どうすればよい状態で次のレンジャーに引き継げるかを考えるように教えられました。物事にはそれに取りかかるに適した時機があり、特に自然保護官は自然と人を相手に仕事をしているので、自分の思いだけではうまく行かないこともたくさんあります。その時機を見極めるのも仕事の一つで、時機を外さないようにたくさんの情報を蓄積させて、準備しておくことが必要だと思います。今は問題なくても今後の為、これからくる自然保護官の為にも、たくさんの情報・資料・人とのつながりを積み重ねていくようにしています。「レンジャーは駅伝」と先輩教えられたことにより、支笏洞爺国立公園の駅伝の順位をどのようにすれば上げることが出来るかを考え、すばらしい自然が未来に繋がっていくように、日々業務に取り組むようになりました。

ー 支笏湖自然保護官のお仕事ならではの達成感やこだわりポイントとは何ですか?

「支笏湖は良いところだね。また支笏湖に来たい。」と言われた時に、じんわりとうれしさがこみ上げます。支笏湖には山と湖を保護していく自然と、キャンプ場や温泉街のように利用して楽しめるふたつの自然があるんです。長年守られてきた自然の風致景観と、アクティビティーや温泉などどちらも楽しんでもらいたいです。最近では書類仕事が多く、事務所の中でパソコンに向かいあう時間が増えていますが、巡視など自然の中に身を置いて新鮮な空気を体全体で感じる瞬間には疲れも吹き飛びます。事務所が自然に囲まれた場所にあるので、移り変わる四季を毎日体感しながら仕事が出来るのは支笏湖自然保護官ならではだと思います。 自然保護官として支笏湖で仕事ができるのは限られているので、私自身はいずれ異動して違う場所で仕事をすることになります。でも地元の方や長年ボランティアをされている方などは変わることなく、支笏湖の自然を見守り続けていくのです。自然保護官1人では国立公園の自然を保つことは出来ません。たくさんの人と人、人と自然をつなぎ、次のレンジャーにタスキを渡すように意識的に仕事に取り組んでいます。そのためにも日常の地道な業務の積み重ねを大切にしています。洞爺湖サミットや国際会議なの影響で、ここ支笏湖でも大きなイベントなどが開催されました。大きなイベントや企画は盛り上がりますが、そのベースにはイベントの時だけではない、日常の業務にこそ大切なことがあると思っています。そういったことをおろそかにすると、後で取り返しのつかない後悔をすることになるので、日常の業務や日ごろからの人とのつながりをなによりも大切にしています。「ホームランバッターではなくても、タイミング良くコツコツとヒットを打つ」それを心に業務に励んでいます。

ただの役人ではない。自然保護官としてとしての姿勢

ー どのような人がこの職業に向いていると思いますか?

自然だけが好きという人よりも、いろいろなことに好奇心を持っている人がいいと思います。人も自然も好きな人が向いていますね。悩む時もあると思いますが、そんな時は自分だけで判断しないで、いろいろな仲間に相談できる環境があります。支笏湖は地元とのつながりが強い地域ですので、皆さんと一丸となって業務に取り組めるのは自然保護官としてとてもやりがいがあると思います。書類仕事で事務所にこもることも多いので、役人といわれればその通りかもしれません。でもただの役人にはなりたくない。たとえ1人しか自然保護官がいなくても、その自然保護官こそが自分なので、なるべく外に出て顔が見えるよう、フットワークは軽く、そして早く反応できるように心がけています。いつまでも「自然保護官」「レンジャー」として、支笏湖の自然と人とをつなぎたいので、それを引き継いでくれる人がレンジャーになってほしいです。

はたらきっぷ=先輩自然保護官の言葉

ー 今の仕事に興味を持ったきっかけ、仕事に対する価値観が変わったきっかけなどを駅に例えて、きっぷに書き込んでみてください。

 

念願の自然保護官として現場勤務が決まったけど、本当に自分に務まるのかと急に不安になり、先輩の自然保護官に相談した時の言葉です。レンジャーは駅伝だから、自分ひとりで完結するのではなく、次の人にいい状態でタスキを渡すことを考えるように教えられました。そう思えることで、日常の積み重ねこそが大切な業務だと気づいたのです。

ー 今後の将来像として、笠原さんが目指している姿はどのようなものですか?

自分が支笏湖にいる間はなるべく外に出て、ここが国立公園だという認識をみんなが持ってもらうようにし、次のレンジャーに引き継ぎたいです。異動で職場が変わっても、私にとって支笏洞爺国立公園は特別です。異動することで、ここで知った支笏湖の魅力を全国へ伝えていき、情報発信できる広報大使になっていこうと思います。地元の人たちは、ここが国立公園であることをすごく認識しています。国立公園であることで、不便なことが多いと思いますが、そんな中でもいろいろな提案や相談をしてくれるし、地元主催の清掃活動などもとても積極的です。国立公園であることが浸透している風土が、支笏湖の自然を守ってきたのだと思います。レンジャーは自然を守っているだけではなく、みんなが自然を守るのをサポートし、繋いでいくことこそが仕事だと思っています。
環境省北海道地方環境事務所
支笏湖自然保護官事務所
自然保護官   笠原綾
住所   千歳市支笏湖温泉
TEL   0123-25-2350