1945年北海道三笠市に生まれ育ち、大学進学のため横浜へ。卒業後は法律を扱う仕事を目指し浪人。37歳の時に1年間パン学校に通い製パンを習得する。1982年札幌澄川で「無添加・天然酵母」のパンをつくる店として妻と2人でノルトエッセンを開業。2002年、当別に場所を移しカフェスペースを併設したパン屋を開業。現在も新しい天然酵母を試し続け、日々20種類もの自家製天然酵母を扱いながらパンをつくっている。ノルトエッセンはドイツ語に訳すと「北の食料庫」。

大切な人が大切にしていることをやってみる

ー どのようなお仕事をされているのですか?

職種としては、製菓製パンと言われている仕事です。
パン屋という看板を掲げているのでパンをメインにつくっていますが、
パイやラスクなどのお菓子もつくっています。
6年前に当別に移ってきたのですが、
以前は約20年間札幌でいくつか支店を持って販売、宅配をしていました。
現在は、春と秋に本州方面でおこなわれる
北海道物産展に参加するためシフトを組んで取り組んでいます。
営業期間は春の4月初旬ころから11月末までの8ヶ月間。
昔の農家みたいですが、雪が降っている間はお店は閉めて、営業しません。
その間はまるっきり止まっているわけではなく、
ネットの注文、電話、ファックスなどでの注文を受け、パンをつくっています。
幼稚園やデパートなどの卸先もあるので、休むことはせず仕事に打ち込んでいます。

ー パン屋になるきっかけは?

大学卒業後は法律を扱う仕事がしたくて、横浜で色々なバイトをしつつ法律の勉強をしていました。
家庭教師をやってみたり、学校の警備をしたりしていたのですが、
37歳の時にそろそろ年貢の納め時と思い、田舎である北海道に帰ろうと決めました。
人よりもできることが2周、3周も遅れている感じがしていたので、
やれることなんてなにもなかった。
当時、結婚して10年経っていたのだけど奥さんは毎日パンを焼いていた。
だからなのかな「パンづくりでもするか~」と思い立ったのです。
1年間パン屋を開業するための学校で学び、
札幌にやってきてノルトエッセンを開業し、独立しました。
開業当初、ノルトエッセンはレシピも持っていないし、パン屋のセオリーも持っていない。
ただ1つ強く心に決めたことがあって、自分の母親がとても添加物を気にする人でした。
昔は無添加なのが普通でしたし、自分の体にもいつの間にか馴染んでいたんでしょうね。
なので、自然と添加物を使わなくてもつくれるパンをつくりたいと思いました。

ー この職種ならではのこだわりやポリシーは何ですか?
  また、早川さんはどういった想いを持ってパンをつくっているのですか?

伝統的な製パンをつくることです。
それは無添加であり天然酵母によってパンをつくるということになります。
現代のパンの多くは、生産性を上げるため時間管理、温度管理によって、
仕込んだ生地を自分たち人間の意志でコントロールし、管理しながらつくっています。
でもそれはいろんな意味でパンづくりには無理があって、人工的な所作が加わることになります。
発酵力の強いイースト菌を使い、何十種類もの色や香りをつけたり、
生地を柔らかくする添加物を使い、機械によってラインにのせていくということになるのです。
そういったパンを食べていると人工的な味に慣れてしまう。
僕はそういったこと全体に深刻な疑問を持っていて、
伝統的なパンづくりを行うことによって自分の製パンというのを貫けると考えました。

伝統的な製パンは熟成が重要です。
熟成とは、パンをつくるための粉が発酵し、パンに変わっていくプロセス。
色々な添加物を使って、熟成を早めたり省略することは本来できません。
ノルトエッセンでは自然の時間がもたらすパンの熟成を大切にしており、
無添加で、イーストを使った場合でも添加物を使用していないパンをつくっています。

また、パンづくりを通して、天然酵母を多彩に深く切り拓いていく方向性をみつけました。
イーストだけでパンをつくるというのは、業務用ではほとんどありません。
多くの添加物が使われます。
添加物を使用しないこと、それ自体がとても大きなハードルなのです。
また、天然酵母はひとつひとつ個性が強く、パンそのものの味を創りだすため、
パンの味を広げるためには多種多様な天然酵母の開拓が必要です。

なので、ノルトエッセンではたくさんの種類のパンをつくるために、
材料、配合、行程が違うたくさんの仕込みをします。
出来上がったパンがひとつひとつ味や食感が違うのは、このためです。
酵母だけでパンをつくろうと思うと、固くなったり、形が悪かったりリスクが高くなります。
パン職人は時間通りに店頭にパンを並べないといけないので、失敗してはいけない。
となると、添加物や乳化剤をいれてつくることになります。
パン屋をやりはじめたころ、天然酵母との付き合いもまだまだ浅くて
つくるの、失敗するんですよね。

その時助けてくれたのはお客さんでした。
お客さんに「添加物が入っていないからごめんね」と伝えると理解してくれ、
それを支持し、支えてくれたのです。
酵母と付き合って30年たった今でも、ちんちくりんで固いパンができます。
ノルトエッセンは運が良く、お客さんの理解があってこそ成り立っています。

酵母も僕たちも経験を経て成長し、レベルがあがっていく

ー 30年仕事を続けていて発見はありますか?

30年夫婦二人で自分たちの理想のパンを求めて、つくり続けていました。
札幌でお店を開いていたころは、何人ものアルバイトの子たちに助けてもらいました。
中には「楽なパンづくりをなぜしないんだろう?」と疑問を持つ子がいたのも確かです。
酵母を扱い、失敗も多ければそう思う子だって出てきますよね。
でも、僕たちは決して楽なパンづくりがしたいわけではなかった。
人の心を動かせる、黙って食べた後に本当に元気が出てくるパンをつくりたいと思っていたから、
簡単につくれることや、売り上げを上げることは自分たちにはぜんぜん魅力が無かったのです。
この手間のかかる行程を踏みながらでも、ものをつくっていると、
10年単位でその苦労がむくわれるような時があります。
札幌時代に自分の酵母をリンゴやブドウからみつけたり、道ばたの草や花からもみつけました。
酵母は自然の中のどこにでもあります。
それを発酵力や香り、美味しいかどうかを試していかなければどんな酵母になるのかわかりません。
「酵母をみつけること」「酵母を使ってパンがつくれるか」
この2つのハードルを越えた天然酵母をみつけなければなりません。
なので、パン屋さんをやりながら毎日実験をしている日々です。
今誰かに「新しいパンをつくって欲しいのだけど。」と相談されても、
常に研究しているのですぐできます。
パン屋であり、酵母研究所みたいな感じですね。

ー 今から5年後の将来像としてどのようなものを描いていますか?

もっといいお店をつくりたいです。
東京や大都市に、自分たちのお店のエッセンスを
伝えることができるお店をつくりたいと思っています。
パンをつくる、ということは根源的な食の問題に向かい合っていることになります。
パンをつくることで問題を提示し、お客さんと共有していきたいです。

食べることは、生きること

ー 当別に移ってきてからのパンの味はどうですか?また、ここでしかできないことなどありましたか?

当別にきて、パンのレベルがあがったと思っています。
パンづくりを意識的に、よりシンプルにすることで味や食感が一気に変化した時期でもあります。
道産小麦もバラエティーがたくさん出てきた時期でもあり、
自分たちのパンづくりのスタイルがより変化しました。
札幌時代からパンをずっと食べている人は、
当別に移ってから「ぐっと美味しくなったよね。」という人もいるくらいです。
パンというツールを通して、自分の可能性をみつけてきたし、自己表現の先がパンになりました。
意識的ではないけれど、自分の居る環境が変わったことが
パンにも良い影響があるのかもしれませんね。

また、当別を拠点に環境教育を行っているNPO法人当別エコロジカルコミュ二ティーと一緒に、
小学生を対象とした天然酵母のパンづくりを行ったことがあります。
シロツメ草の酵母でパンをつくるのですが、
まず秋に小麦をまき、春に芽が出てきたら草取りをします。
その間はパンに使う塩を石狩の海水からつくり、
地域の酪農家から牛乳をもらいバターをつくりました。
季節が変わり夏になったら、スイカを煮詰めてスイカ糖をつくる。
1年を通して、麦が育ち製粉してその全粒粉を使って
今まで自分たちのつくった素材からパンをつくりました。
ガチガチになったパンでも、カタチが不揃いでも、
自分たちがつくったパンは地域のお祭りで販売しました。
酵母と同じように1年間を通じて成長を理解しながらパンをつくれたことに、
とても大きな意味を感じました。
こういった活動を通して食の可能性や生き様に及ぼす影響に可能性を感じます。

はたらきっぷ=「周回遅れでも構わない」

ー 今の仕事に興味を持ったきっかけ、仕事に対する価値観が変わったきっかけなどを駅に例えて、きっぷに書き込んでみてください。

人に与えられた時間は1日24時間。
自分がパンづくりを始めたのが37歳。
他の人と比べるとなにもできていないと思った。
だからこそ、この30年僕は自分が設定したゴールはやってくるのだろうか、と常に思いながらパンをつくっています。
今の社会が抱えている食の問題には強い危機感を持っています。
周回遅れでも構わないから、僕はその課題を
解決することができるのだろうか?!と日々自分と
戦いながら過ごしているかもしれません。
パン屋になると決めた日から、
きっと僕はこのゴールに向かって走り続けているのだと思う。
Nordessen
代表   早川哲雄
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MAIL   nordessen@yahoo.co.jp
営業期間   4月中旬〜11月末
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